2008年6月22日日曜日

ゴルフー2


完全に間違っていた僕のスイングイメージ

プロゴルファーのレッスンで、ゴルフクラブでボールに当てにゆくイメージでは、逆に正確にボールには当たらないことを教えられた。正確なボールを打つには、ゴルフクラブの特性と軌道を考慮に入れたスイングが重要なのだ。だが、新しい振り方を習得しようとしても、10年以上悪い振り方がこびりついた脳と体は簡単に反応してない。いわゆる”頭ではわかっていても、体が反応しない。”という状態に陥った。脳と体の連携がフリーズし、ついにボールが前に飛ばなくなった。僕は焦り、引きつった表情をしていたにちがいない。レッスンプロは笑いながら「今がスタートです。数ヶ月以内には何とかなるでしょうから、慌てないでやりましょう。」と言う。
せっかちな僕は”本当に大丈夫なのか?”と不安を感じずにいられない。1時間の練習で20球程度しかボールを打てず、その中でまともに前に飛んだボールは一球もなかった。我流で練習していたときは、1時間で少なくとも100球は打っていた。だが、これまでの練習はすべてが無駄だった。いや、むしろ悪い習慣を身につけるため、つまりゴルフが下手になるために打ち続けていたのだ!この事実を知ることは屈辱以外、何物でもなかった。なぜなら、まだゴルフをやったことのない子供のほうが、むしろ僕より早く上手くなるであろうから。しかし、この先生が言ったように、自分の誤りを素直に認めることが進歩への第一歩。少なくとも良い方向に修正するスタート地点に立てたのだから、ありがたいと思って気持ちを落ち着けた。
ゴルフはコンスタントに良いショットが打てるようになっても、必ずしもスコアはアップしない。次の課題はいわゆるショートプレイ、つまりグリーン周りのボールを正確にアプローチして、パターを決めなければいけない。このようにゴルフはとても奥が深く、なかなかスコアが伸びないので、多くのゴルファーがこのスポーツにハマってゆく。僕は自分の今後のゴルフ上達への課程を考えると、気の遠くなる思いがした。このレッスンプロ曰く、”我流でも一生懸命練習すれば80台のスコアを出せる。しかし、誤ったスイングでゴルフを続けても、それ以上スコアが伸びなくなり、歳を重ねるに従い、逆にスコアが悪くなる。そのあたりでゴルフをやめてしまう人が多い。”のだそう。まさに、僕はゴルフが上達する以前に、その下り坂をまっしぐらに降り始めていたのだ!

ゴルフレッスンから学んでいること

レッスンプロから正しいスイングとはどのようなものか、とりあえず頭で理解することがは出来た。僕は出来る限り先生の言われた通りの正しいスイングをビデオ撮影してみた。だが、そのゴルフスイングには、悪い癖がものの見事に残っていた。この事実は主観的イメージが客観的なものとは必ずしも一致しないことを証明している。このイメージの食い違いがゴルフ上達を妨げる主たる原因なのだ。つまり、ゴルフのような繊細なスポーツは主観的なイメージを、客観的に正しいものに一致させることが上達への秘訣だが、それはタイガーウッズのような超一流プロにですら不可能らしい。したがって、タイガーウッズですら、コーチをつけて常にゴルフスイングをチェックしているのだ。
僕はゴルフを甘く見すぎたために、いつまでも上達できないでいた。この事実はスポーツが得意な僕のプライドを見事に打ち砕いた。そして、何事に対しても謙虚な姿勢がいかに大切であるかということを、僕はゴルフレッスンを通じて思い知らされている。僕はこの事実をもう少しプラスの方向に考えようと思う。脳の老化が始まっている僕のような40歳代の中高年層にとって、長年の習慣を捨て新しいこと習得することはとても難しい。ややマゾっぽい感じもするが、鈍くなってきた脳に鞭打って新しいことを覚えさせるプロセス、時間のかかる作業ではあるが、この体験が実は新鮮で楽しいとすら思える。ゴルフレッスンを通じて現在僕が学んでいることは、今後の人生を有意義に過ごすために必要なのだ。その要点をまとめると次のようになる。

1)人生には自分が正しいと思っていることが、実は間違っていることも少なくない。
2)そういった事実をプライドを捨てて謙虚に認める。
3)誤りを修正するためには客観的なアドバイスにも耳を傾ける。
4)正しい方向に進み始めたら努力を怠らないで継続する。

”ゴルフなんて簡単だよ。”そんな甘い考えを持ち続けていたせいで、僕のゴルフの進歩は完全に絶たれていた。この過ちを修正する努力は、脳と体の連携を活性化させるという意味で、僕自身の老化防止(アンチエイジング)にとっても大きな意味を持つ。僕のように40歳を過ぎた人の脳や体は着々と老化が進んでいる。だが我々は、歳を重ねてもこの紛れもない現実すら、謙虚に認めることが出来ない。何故なら、人はいつまでも若くいたいと、心のどこかで願い続ける生き物だから。

2008年6月13日金曜日

ゴルフ-1



大学院進学

大学院は基礎医学研究を行い、卒業時には医学博士業を取得することが目的となる。だが、その頃の僕には、いわゆる”モラトリアム的甘え”(知的、肉体的には一人前に発達していながら、意図的に社会的な義務を果たさず、躊躇している生き方)があった。将来何をしたらよいか定まらない中、僕はとりあえず大学院に入学した。大学院ではこれといって、義務的な仕事はなかった。自分の所属した研究室の研究テーマを少しでも進めることが大学院生の仕事だが、それはあくまで本人の自主性に任される。
大学院には僕のように医学部を卒業してそのまま入学する医師は少なく、一度臨床医として社会で数年働いた先輩たちが、医学博士号取得のために入学するのが一般的だった。こういった先輩たちは、北海道の地方で診療をするかたわら、ゴルフを覚えて戻ってくることが多かった。 夜8時過ぎ、大学院での研究生活が終わる頃、その中の先輩医師が「ゴルフの打ちっ放しでも行ってみないか?」と誘われたのが、僕がゴルフを始めたきっかけだった。 今から15年以上前のことになる。

甘く見ていたゴルフ

若くて元気いっぱいだったその頃の僕は、”止まったボールを歩きながら打つゴルフ。これもスポーツなのだろうか?”それが僕が持っていたゴルフへのイメージだった。サッカーのように汗を流すのがスポーツだと思っていたので、”ゴルフはおじさんのスポーツ”と軽く見ていた。僕は物覚えがついた頃から、野球、サッカー、テニスなどの球技を見よう見まねでこなしてきたという自信があった。ゴルフもきっとすぐにうまくなるだろうと高を括っていた。
数回打ちっ放しに行くと、案の定すぐにボールに当たるようになった。そのとき、僕は”そら見たことか、やっぱりゴルフなんて簡単だよ。”と思った。その後すぐに先輩に連れられてゴルフコースに行くようになった。当時のスコアは120程度だったが、すぐに100を切れるようになるだろうと思っていた。大学院生活2年目に入っても研究目標が定まらない僕は、教授からニューヨークの共同研究室に留学することを命じられた。留学期間中、広大なアメリカは比較的安くゴルフが出来るので、毎週末よくゴルフに出かけた。一般的日本人のゴルフ観に”100を切れば一人前。”そんな風潮がある。定期的にゴルフコースに出かけると、スコアはそれなりに進歩した。ゴルフを始めて一年以内に、僕のスコアは100を切るレベルに達した。僕はゴルフが上手くなったつもりでいた。
それから長い年月が経過した。それなりにゴルフは継続していたが、ある時期は研修医としての仕事が忙しく、数年間全くゴルフクラブを握らないこともあった。肝心の僕のゴルフスコアはどこまでレベルアップしたか?結局、この15年間のベストスコアは90。常に90と100の間をうろつくような状態で、ほとんど上達していなかった。スポーツ好きな僕は、クリニックを開業してもサッカーやスキーなどのアクティヴなスポーツをやり続けてきた。そして、数年前無理がたたって、アキレス腱断裂という大怪我を経験し、体に気をつけてスポーツをするようになった。

全く上達しないゴルフ

そんなつらい体験の中からゴルフは体に優しく、生涯スポーツとして取り組んでゆけると思い、去年あたりから積極的に行うようになった。だが、依然スコアは全く伸びなかった。ベストスコアの90で回っても、納得のゆくゴルフのイメージとかけ離れていた。どうしてうまくならないのだろう?去年の暮れあたりから、僕は数ヶ月間、週2回、夜仕事が終わってから打ちっ放しに出かけた。自分なりにあれこれ考えながら、相変わらず我流で練習した。すると、スコアはベストスコアの90まで達したが、それ以下にはどうしても進歩しない。ゴルフコースに出ても僕は必死だった。少しでも効率的に上達するため、一打一打、いろいろ考えたり、悪い点を修正する努力をしたり、無心になって集中するなど、様々なことを行ってみた。しかし、何をしてもうまくいかなかった。
僕はゴルフに嫌気がさし始めた。「どうしてゴルフだけはいくら練習しても上手くならないのだろう?ばかばかしいからもうやめようか?」ミスショットを繰り返すたびに、僕は怒りとストレスで一杯になっていた。僕は自分の欠点を知りたいと思った。自分の欠点は意外に自分ではわかりにくい。一緒にゴルフに行く友人から「慌てて早く振りすぎ。」と指摘された。だが、ゴルフクラブは早く振らないと、ボールは遠くに飛ばない。リラックスして振らなければ当たらないのはわかっている。だが、コースに出て緊張すれば、どんなにゆっくり振ろうと思ってもそれが出来ないのがゴルフというスポーツなのだ。
昨年末は仕事が忙しく、しばらくゴルフに行けなかった。年の暮れが押し迫った年末のある日、僕は久しぶりに友人たちとのゴルフコンペに出かけた。ハーフを廻りきらないうちに僕の顔は顔面蒼白になった。スコアはすでに軽く50をオーバーしていた。この調子だと、最終的には120にも達する調子の悪さだった。正直、コースの途中でゴルフはもうやめたいと思った。「15年前に始めた時よりも成長しているどころか、下手になっている!」これはスポーツには自信のあった僕のプライドを著しく傷つけた。
僕はしばらくパニックに陥ったが、冷静になったときに自分自身に2つの選択肢を与えた。すなわち、ゴルフは完全に断念するか、もしくはこれまでとは異なった方法、つまりゴルフレッスンを受けてゼロからスタートするかのどちらかである。このスポーツが生涯スポーツで、老後の楽しみとしての価値を考慮すると、今投げ出すにはもったいないと思った。また、我流で15年間行ってきたこのスポーツ、一体何が上達を妨げる原因なのか、その理由を僕はこのスポーツに謙虚になることで知るべきだと感じた。幸運にも友人の紹介で、若くて気さくなプロゴルファーと知り合うことが出来た。僕は迷わずゴルフを一から習うことにした。僕のゴルフが正しいゴルフ理論からから完全に逸脱していることを、一度目のレッスンで知ることになり、僕は唖然とした。