2005年11月28日月曜日

僕のアンチエイジング治療−10



美味しいものを食べることが幸せなのです。
アフリカのマサイ族はほとんど肉しか食べないが、みなスリムな体型をしている。彼らは典型的な狩猟民族だからすぐにエネルギーとして消費される肉食中心の究極の低インスリンダイエットを行っているせいだ。僕もこれに見習おうとしばらくの間、肉、卵、豆腐中心の食生活を行っていたが、3ヶ月もすると単調な食生活に飽きてきた。このままずっと続けることはマサイ族にでも弟子入りしない限り無理だと思い、普段から出来るだけタンパク質の多い食生活に心がける程度にとどめて、ご飯やパスタなども以前のように食べるようにした。食欲はカロリーと栄養分だけで満たされる物ではない。様々な物を食べることでの新気分転換、色合いや楽しい会話も食欲を満たすのには不可欠だ。肉などの単品ばかり食べていると、そのうちにどうも精神的充足感が満たされないことに気がついた。
僕は大学時代サッカー部に所属していたが、ある時先輩の一人がヘディングシュートをする時に敵と激突して頬の骨を骨折した。すぐに手術治療が行われたが、大変なのはそれからだった。頬の骨の骨折治療を行うと顎間固定と言ってあごからほほにかけて固定するので、約1ヶ月の間口を開くことが出来ない。その間口の隙間から流動食をチューブで流し込む。先輩はこの流動食で十分な栄養素を補給することは出来たのだが、物を食べることが出来ないことがこれほど辛いとは思わなかったらしい。特に物を噛めないことが大変なストレスになることを痛感したそうだ。このように食べ物を美味しく食べること自体が我々の幸せに直結しており、それが健康的生活の維持に欠かせないものだ。
このような経験を通して、僕がダイエットに関して気がついたのは体重を減らすことが本当のダイエットではないということだ。しばらく断食をすれば、体重を2〜3キロ落とすことはそれほど難しくない。難しいのは減量した体重の維持で、これをいかに成し遂げるかが本当のダイエットなのだ。ひとはどうしても流されやすいので、宴会が続いたり、美味しいものが次々と出てくると勢いでついつい食べてしまう動物だ。それが動物の本能なのだからいた仕方がない。中年の男性のお腹が出てくるのも自己防衛本能によるものだ。つまり、若い頃は体が俊敏で食べ物はいつでも手に入れることが出来るが、老化してくると筋力が弱って、獲物をとることが出来なくなる。そうなると、少しでも自分の体に栄養を蓄えようとしてお腹に脂肪として備蓄されるわけだ。僕はお腹が出てきた時点で、生物として自分の負けを認めざるを得ないような気がしてならない。

脂肪の持つ重要な役割。
こんな脂肪も現代社会ではダイエットの敵とされているが、生命保存の意味ではとても有用だ。カリフォルニア沖の海水温は北極方面から流れてくる寒流のため、夏でもとても冷たい。僕もロスの海で泳いだことがあるが、すぐに唇が真っ青になるくらいだ。周りを見るとウエットスーツを来て泳いでいる人たちが多かった。このカリフォルニア沖である時、クルーザー船が転覆した。3人がこの冷たい海に投げ出された。救命具に掴まって救助を待っていたが、あっという間に一人が意識を失って海の底へ沈んで行った。しばらくすると救命具を船から取りに冷たい海の中で泳いだ一人がやはり消えた。何もせずにじっとしていた一人は数時間の後に救助船に発見されて助かった。一体この3人の違いは何だったのだろうか?最初に絶命した人は痩せている男性だった。皮下脂肪がないためにあっという間に低体温?症に陥って意識を失ってしまったのだ。映画タイタニックのラストシーンでのレオナルド・ディカプリオがまさにその状態だった。次に沈んだ人は冷たい水の中で泳いで体力消耗してしまった男性だった。このような極限状態でむやみに体を動かすのはとても危険なのだ。では、助かったのはどのようは人だったのだろうか?それは皮下脂肪をたっぷりと蓄えた肥満女性だった。彼女は冷たい海で救命具に掴まりながらじっとしていた。皮下脂肪は体が低体温に陥るのを守ってくれたし、じっとしていて体力を消耗しなかったため数時間耐えることが出来たのだ。
以上述べたように、脂肪には保温効果という大切な役目がある。さらに、衝撃からのクッションの役割があり、痩せている人の方が太っている人よりも交通事故の際、内臓破裂を起こして死ぬ確率が高い。美容学的にも適度な脂肪がある方がより美しい。エストロゲン、プロゲステロンと呼ばれる女性ホルモンは胸やお尻、太ももといった女性らしい部分に適度な脂肪をつける働きがある。ガリガリの女性よりもこういった部分に適度な脂肪がある方が、女性として魅力的だ。顔も然りで、脂肪がなくてごつごつと見える顔よりもある程度の脂肪があってふっくらしている方が若々しい。以上の理由から脂肪を忌み嫌うのではなく、健康的なダイエットを心がけるのがよい。
新陳代謝を良くすることと食べ物の組み合わせを考え直してから、僕のダイエットもかなり理想的になった。理想的な体重を維持することは健康的な体を保つためにとても大切なことはこれまでの説明で分かっていただけたと思う。ダイエットはアンチエイジング医療の中でも根幹をなすものの一つであるため、僕もここまで詳しく書いたつもりだ。僕は食生活、適度な運動、睡眠時間、サプリ、ダイエットなど考えられるアンチエイジング治療は行っていたが、東京に来てからの僕の顔色はいまいち優れなかった。北海道時代の外科研修の不規則の生活で出来た眉間のしわもさらに深くなってきた。体には気をつけているのに何故なんだろう?僕は今から数年前、東京で活躍するアンチエイジング医療のプロたちに会って、ようやくこの悩みに対する解決への糸口を見つけた。

2005年11月24日木曜日

僕のアンチエイジング治療−9


間違っていたダイエット法
体重はそれほど増えているようには見えなかったが、実際、鏡を見ると確かに顔が太ったように見えた。「えーっ、何故なんだろう?」僕は頭を抱えた。新陳代謝を上げて体の中の余剰カロリーを燃やすことに成功したはずなのにと。簡単には諦めない僕はその原因を見つけるべく、働いていた病院で血液検査を行ってみた。検査結果に病的なものは何もなかったのだが、血漿タンパク量が正常以下だった。「そうかー、顔が丸く見えるのは太ったのではなく、むくんでいたんだ!」と気がついた。僕はダイエットを行うにあたり、何を食べるかあまり気を使っていなかった。カロリーさえ減らせば良いのだと思って、カロリーの高そうな食べ物は減らすことにしていたのだ。その中でまず最初に考えたのが、ステーキなどの油の多そうな物だった。ステーキは僕の大好物だったから、なんとか高カロリーの贅沢な食事を減らすことが太らないためには必要だと考えたからだ。基本的に食べ物は病院の入院食を中心に食べ、お腹がすいたらパスタを作ったりしていた。確かにカロリーは控えめだったが、タンパク質が不足していた。体のタンパク質が低下すると体の中に水が溜まりやすくなり、むくむのは医学の常識だ。元々僕の顔は脂肪が多く、むくみやすかった。お酒を飲んで夜更かしをした朝は決まって顔が腫れていた。顔に脂肪が多いと脂肪細胞の間に水が溜まるのが原因だ。
血漿タンパク質が低いのは健康な体を維持する上で大問題であることがその後の勉強で分かってきた。タンパク質は骨、筋肉など体の土台となる部分の栄養素なので、不足した状態が続くと体が弱々しくなる。年配の女性でタンパク質が不足すると骨もすかすかとなり、いわゆる骨粗鬆症という病気になる。そういえば僕も4年間の地方病院での臨床研修医時代、数年に一回突如腰が痛くて辛いことがあった。数週間安静にしているとよくなったが、これもタンパク質不足が原因だった。顔のむくみはタンパク質の摂取量を増やせば良くなるはずだった。

低インスリンダイエットについて
それから僕は単に摂取カロリーを減らすと痩せてくるのではないという重大なことにダイエットのことを考え始めてから4年経ってようやく気がついたのだ。それから僕はどういった食べ物を摂取すべきなのかを勉強し始めた。その頃、低インスリンダイエットというやり方が一躍脚光を浴びていた。アメリカではアトキンズダイエットというやり方も有名であった。両方とも食べ物の組み合わせを考慮するダイエット方法で、僕が必要だったのはこれらの内容を理解することだった。これらを勉強するうちに「なるほど。僕はどうしてこんなに大切なことに気がついていなかったのか?」と思った。
結論から言うとこうだ。ケーキとラーメンで800キロカロリーの食事をした人とステーキだけで同じ1000カロリー食べた人がいる。どちらが太りやすいだろうか?摂取かロリーの少ない前者の方が太りにくいなどと思ったら大間違いだ。なんと前者の800キロカロリーのほうが後者の1000キロカロリーの方より太りやすいのである。僕は唖然とした。食べ物の組み合わせによって、少ないカロリーでも太りやすくなるように体の構造がデザインされているからだ。ケーキやラーメンなどの炭水化物を食べると膵臓からインスリンが分泌されやすくなって、体は摂取カロリーを吸収しようとする。肉などのタンパク質系の食べ物はインスリンが出にくく、そのカロリーは摂取しても熱となってその場で燃えてしまいやすいのだ。それは僕たちの祖先のことを考えれば納得出来る。我々日本人のように農耕民族は炭水化物中心の食べ物を中心に食べていたのだが、その場合腹持ちがいいほう、つまりカロリーが体に蓄積されてゆっくり代謝される方が優利なのだ。それに比べて欧米人のような狩猟民族は肉食中心だが、彼らは猟りをするために瞬発力が必要で、すぐに燃えるカロリーが必要だったのだ。
いわゆる低インスリンダイエットは上記の原理を用いたものだ。要するに食べ物の組み合わせを考えて、インスリンが出にくいものを食べることで、体に脂肪が蓄積することを抑えるのだ。アメリカでブームを呼んだアトキンズダイエットも結論は一緒だ。この理論によると砂糖と脂肪は最悪の組み合わせらしい。つまり、ケーキはとっても美味しいけれど食べた分だけ身になるため、ダイエットにとっては最悪の食べ物だ。ダイエットを志すのであれば、ケーキだけは厳禁とすべきなのである。
以前、働いていたクリニックのスタッフが3人で一斉に低インスリンダイエットを始めた。僕は3人とも痩せてくるのであればこの方法はとても信用が出来ると思った。数ヶ月彼女たちを観察していると確かにスリムになっていた。新陳代謝を高めることに成功していた僕は、食べ物の組み合わせを考えることをとり得られれば、もう大丈夫だと思い、早速低インスリンダイエット療法を開始した。やると決めたら極端な方の僕は炭水化物を極力控え、タンパク質中心の食べ物に切り替えた。例を挙げると、牛のヒレ肉のたたきを買ってきてそれに生卵をかけて食べるようなやり方だったが、しばらく続けて行くうちに確かに体重は理想的に維持出来るようになっていた。

2005年11月21日月曜日

僕のアンチエイジング治療−8


ダイエットの鍵は新陳代謝
そもそも、ダイエットとアンチエジング療法にはどのような関係があるのだろうか?男性の場合、30代後半にもなるとお腹が出てくる。若い頃と同じ食事をしているのに、お腹だけが出てくるのはどうしなのだろうか?僕はこの疑問を解くことが”よく食べても太らないダイエット”を見つける糸口になると直感した。僕も実際そうだった。20代の頃は体育会系でサッカーやスキーに没頭していたので、どんなに食べようが太ることはなかった。若かったのと激しく運動をしていたので体内の新陳代謝が良かったのだろう。ダイエットの成功への秘訣はこの新陳代謝についてよく理解して、その働きを良好に保つことだ。では、この新陳代謝とは何だろう。ヒトは黙っていても体温を維持したり、心肺を動かすのにエネルギーを消費している。このヒトの基礎的代謝に関わるエネルギーの状態を新陳代謝という。車で言うとエンジンをかけてアイドリングしている状態を思い浮かべると分かりやすい。エンジンをかけっぱなしにしていてもガソリンは時間とともに消費されている。ヒトは若い時、車で言えばエンジンの回転数が高く保たれているのでガソリンの消費が早いけれど、年齢とともにエンジンの回転数が下がってきてガソリンの消費率が下がる。エンジンの回転数が下がってくると、当然エンジンの温度も下がって、エンストしやすくなる。ヒトでもこれと全く同じことが言える。加齢とともに新陳代謝が悪くなると、体温が下がってきて寒さにも弱くなり元気がなくなるのだ。黙っている状態での消費カロリーが若い頃に比べて減ってくるので、若い頃と同じ食事をしていると当然太ってくる。

新陳代謝を上げる方法
僕は新陳代謝が年齢とともに何故下がってくるのかを調べて、それを食い止める方法がないか必死になって探した。新陳代謝さえ良好に保つことが出来たら、好きな物をお腹いっぱい食べても太らない、楽々ダイエットが成し遂げられるはずだからだ。僕は新陳代謝を高めるために以下のことを心がけた。
1)体の中にあるカロリーをうまく燃やすことが新陳代謝を高めることになるので、カロリー消費に不可欠なお水をたっぷり飲むことがとても大切だ。僕は少なくとも一日2リットルのお水を飲む。
2)運動をすることはそれ自体、カロリーを消費する行為なのだが、運動をするとそのカロリー消費の勢いに伴って新陳代謝も良くなることが証明されている。僕はそれまで車で通っていた通勤を出来るだけ避けて、ウオーキングや自転車で通勤する。
3)汗をかくことで新陳代謝が良くなることが知られているで、一日仕事の終わりにお風呂に必ず入る。

とりあえず、この3点を習慣づけるよう努力した。この生活習慣を2〜3ヶ月続けていると、それなりの効果を感じることが出来、俄然この新陳代謝改善療法を続けてゆく意欲が湧いた。「あー、これで自分も太りにくい体質になれる。好きなものを食べたいだけ食べても太らないようなれるんだ。」と思った。僕はこの治療法に過信して結構、大食いをするようになっていたある日、いつものように整形外科病棟を回診していた。しばらく会っていなかった患者さんから開口一番、「先生、最近太ったんじゃない?」と言われた。僕は耳を疑った。新陳代謝を良くして太らないよう気をつけて生活しているのにまた太ってきたのかと!

2005年11月19日土曜日

僕のアンチエイジング治療−7


食欲は抑制できるの?
では、ダイエットの根本的理論とは何だろうか?一般的にダイエットというと、摂取カロリーと消費かロリーの関係が第一に取り上げられる。摂取カロリーが消費かロリーを上回れば体に脂肪がついて太ってゆくことは当たり前だ。当時の僕を含めてダイエットの知識を持たない大方の人たちが行う誤った方法はとにかく摂取カロリーを闇雲に減らすことだ。とにかく食欲を抑制することに必死となる。僕も経験したが食欲を抑えることはとても辛い。それは自己生命保存の欲求と呼ばれる強い本能に逆らうからだ。僕たち普通の人はブッタやガンジーのように本能を抑えるほど強靭な精神力は持ち得ないため、どんなに食欲をコントロールしようとしても遅かれ早かれ必ず破綻するのだ。大半の場合食欲を抑えていられるのは長くても一ヶ月くらいだろう。
僕自身もこの食欲を抑える我慢ダイエットはあまり長続きしなかった。もともと、痩せ気味の僕はそれほど大量の物を食べなくても平気だったが、まだお腹がすいているのに我慢するのは本当にストレスになった。小さい頃から外で遊び歩いてお腹がぺこぺこになって家に帰ってくると第一声、「お母さん、今日のご飯は何?」と聞くのが日課だった。美味しい食べ物をお腹いっぱいに食べるのが何よりの幸せだった。本能のままに生きる動物たちにしても食べ物を探し歩いて食べるのが生きる意味すべてだ。食欲を我慢して行き着く先は「こんな辛い思いをして、何のために生きているんだろう。こんなんじゃ生きていてもつまらないよ。」という感想だ。我慢ダイエットは何度挑戦してみても同じように失敗した。

ダイエットの落とし穴
昔から”我慢は体に毒になる”と言われている。食欲を抑制するダイエットもまさに毒だ。免疫力は弱り、女性の場合月経不順も起こりうる。まず最初に痩せるのは筋肉や骨などの体を支える器官であって、最も痩せてほしい皮下脂肪は最後まで残る。皮下脂肪は痩せて行く状況の中で、体を寒さや飢えから守る最後の砦になるので、体は限界まで皮下脂肪だけは蓄えようとするのだ。つまり、食欲を抑制する我慢ダイエットは痩せたい部分を減らすことの出来ない矛盾に満ちたものとなる。
この我慢ダイエットの毒はそれだけではない。食欲を抑制することからくるストレスは計り知れない。このストレスの悪影響は甘く見ることが出来ない。最悪の場合は拒食症と言って、精神状態に破綻を来たし全く物を食べることができなくなる。これはれっきとした精神疾患で放っておくと死に至ることすらある。大半の場合、そこまでの状態には陥らないが、このストレスが限界に達した時「あー、もうこれ以上無理。我慢出来ないからやーめた。」ということになる。その後のさんさんたる状況は読者の皆様の中にも経験された方がいるかもしれない。飢餓状態に陥った体は食べ物が入ってくるやいなや、もの凄い勢いで体に栄養を蓄えようとする。食べたものすべての栄養、カロリーを体が吸収するのだ。つまり、体が太りやすい体質に変化してしまったのだ。いわゆる”リバウンド”という状態で、気がついた頃にはダイエットを始める前よりもふとってしまう。こうなるともうやけくそで、あんなに辛い思いをして頑張ったのに結局前より太ってしまう状況に愕然としたあとは、「どうせ痩せないんだったら、もういいからたくさん食べてやる!」と開き直る人も少なくない。この状況は完全に悪循環に陥っており、痩せることはおろかどんどん太って行く最悪のシナリオだ。

物をたくさん食べない男はあまりモテない。
ある時、この我慢ダイエットを敢行している時、当時付き合っている女性と食事に行った。その女性はスタイルの良い男性が好みとのことだったので、僕はもっと頑張ってやせてみようかなと考えたのだ。僕が出てきた食べ物に箸をつけるのをためらっていると「どうしたの?具合でも悪いの?」と尋ねてきた。僕は「いいや、そんなに食べたくないんだよね。」と答えた。すると、女性はがっかりしたように「私は食欲のない男性は嫌いなの。」と言い返してきた。僕は「えっっ?」と思った。「痩せていてスタイルの良い男性が好きだっていうから、君のために頑張ってダイエットしようと思ったのに。」と心の中でつぶやいた。その後どの女性に聞いた結果、圧倒的によく食べる男性の方が食べない男性よりモテることが分かった。これが僕の目指すダイエットになった。つまり、よく食べるけれど太らないこと。これが究極のダイエットなのだ。「よく食べても太らない?」一見矛盾したことのように聞こえるが、僕は俄然としてその方法を探し始めた。

アンチエイジング紀行ー2(バンコク編)


タイの医療事情
翌日我々は早朝に行われたアンチエイジング医療会議に出席するためバンコクから南へ2時間車を走らせ、パタヤにたどり着いた。道路は高速道路であるものの、でこぼこが多く、時々車のシートから体が宙に跳ね上がった。この時期のタイは雨期から乾期に変わる頃で、時折雨がふるものの、いわゆるスコールと呼ばれる雷を伴うような土砂降りの雨は降らない。日中は気温が30度を超え、75%以上ある湿度のせいか日が沈んでも気温は25度を下回らない熱帯夜だ。パタヤではタイで有数の総合病院の一つを訪れた。タイでは日本のように国が税金から支出する国民健康保険制度が存在しない。外国からの駐在員やタイ人のお金持ちたちはそれぞれ、健康保険を私的保険会社から買って、その保険を医療費に充てる。お金のないその他の一般市民は国の援助で低額医療費範囲内で限られた治療のみを受けることができる。一般市民たちが瀕死の重症に陥った場合、手術のように高額治療のみが命を助ける手段であっても、支払うお金がなかければ治療を受けることができずに命を失ってしまう。
僕たちが訪れたパタヤ病院は大きな総合病院で、最先端医療を受けることが可能だった。その患者の多くが日本企業に努める駐在員の家族やUAEのような石油産出で裕福なアラビアの国から最新の医療を求めてやってくる患者たちだ。入院ベッドも支払うお金によって格差があるのだが、日本円にして一日3万円ほどする病室は高級ホテル並みの豪華さだった。日本でも差額ベッドのような自費によるサービスの差別化が進んできているが、そういった面ではタイの医療体制は一歩進んでいるように思えた。

美容医療先進国のタイ
タイの美容医療もまた注目に値する。美意識が高く、物事を隠さないタイ人たちの気質が美容医療を積極的に受け入れるのだ。タイの美容医療の特徴として性転換手術がある。なぜかタイには性同一障害、いあゆる”おかま”と呼ばれる男性が女性に、逆に女性が男性に変身する人たちが多いのだ。この性転換手術に関してタイは世界有数の先進国である。日本ではあまり症例の多くないこの手術もタイの美容医療では最も数が多いのだ。しかも、タイの物価が安いことから手術も日本で受ける手術料金の三分の一ほどであるため、最近では世界各国から患者が集まっている。日本人の患者も少なくないそうだ。何故なら、比較的高い日本の美容手術料金を払うとすれば、それと同じ料金でタイ1週間旅行と美容手術を受けることが出来る。治療内容が悪くなければこれほどお得なことはない。僕の見る限りタイの治療レベルは決して低くないので、受ける治療内容を吟味すれば決して悪くはないと思った。病院内にはかなりの数の女性職員が働いているのだが、この女性たちがなかなかの美人ぞろいだ。もちろん整形手術を受けている職員も少なくないが、ぱっと顔を見る限り鼻の整形を受けている女性が多い。タイでは比較的団子鼻の女性が多く鼻を高くしているのだ。僕はこの道のプロなのでその辺の所はすぐに気がつくのだが、上手に治療されていると思った。ユニークだったのは病院が巨大なので、カルテを運ぶ女の子たちがローラースケートを履いて移動していることだった。彼女たちのスカートの丈は短く、アメリカのドライブインを思わせるような雰囲気だ。どちらかと言うと暗いイメージのつきやすい病院にとって、このような風景には明るさがあって決して悪くないアイデアだと感じた。

魅惑の国となったタイ
病院見学を終えた後、パタヤの海辺近くのレストランで昼食を食べた。例によってエビやカニにココナツやハーブの入ったスパイスをつけて食べるのだが、暑い国のせいかアルコール類は今ひとつ充実していない。こちらではアルコール濃度の濃いシンハービールが有名で、このビールに氷を入れて飲むのが習慣らしい。暑いタイで飲むにはぴったりの飲み物だが、昨日からこのビールはさんざん飲んだので別のものが飲みたかった。このレストランにはワインがあるとのことで、頼んでみることにした。14度で保たなければ酸化が進んで風味が落ちてしまうワインがタイで美味しく飲めるはずがなかったが、何事もチャレンジが大切だ。テイスティングをしてみると味は酸化のせいかやや三味が強かった。でも、パタヤの潮風を受けながらワインを飲んでいる僕たちはワインよりその雰囲気に十分酔うことが出来、上機嫌になった。同行している臨床抗老化学会の岡野氏らとともにはしゃいでいると、レストランで働く若者たちが面白そうにこちらを覗き込んでいた。きっと、同じ東洋人の僕たちが楽しそうにしているので親近感をもったのだろう。僕たちは思わず彼らと写真を撮ったあと、タイの言葉で「ありがとう」を意味する「コップン・カップ」と告げた。
短期間の旅行の最後となる帰路の飛行機は夜間便だった。夜10時に出発して朝の5時に成田到着だ。経済的にまだまだ発展途上にあるものの、混沌とした文化の中に潜在的な可能性をこの国に感じることが出来た。飛行機で一晩過ごせば現実の日本にひとっ飛びだ。成田空港では気温10度と先ほどまで30度以上あったタイと比べるととても寒かった。成田空港から成田エクスプレスの乗り場に移ると若い4、5人のタイ人女性が寒そうに列車を待っていた。僕は彼女たちに妙に親近感を覚え、思わずタイの言葉で「こんにちは!」を意味する「サワディ・キャップ!」と声をかけようとしたが、そんな脳天気なことは次回タイに行った時にすることにした。

2005年11月16日水曜日

アンチエイジング紀行 1


先日、日本臨床抗老化学会の招きにてタイ王国、バンコクで行われたアンチエイジング・カンファレンス及び病院視察旅行に行った。週末を利用した2泊3日の強行スケジュールだったが、同学会事務局長の岡野氏と土曜の昼過ぎから出かけた。開業医の僕は日々の診療に追われる毎日なので、休日を利用した旅行は体力的にはきついのだがこの上ない気分転換となる。飛行機に乗るやいなやビールとワインをたしなむと、あっという間に眠りに落ちた。気がつく頃には飛行機はもう、バンコクの近くまで6時間半の航路を終えようとしていた。バンコクには夕刻についたが、空港の外に出ると立っているだけで汗が出てくるほど暑かった。

旅行ガイドの紹介で、バンコク市内のホテルにタクシーで向かったが、その道は土曜の夜のせいもあり大渋滞だった。ガイドに聞くとバンコクの交通事情は世界の中でも悪名高いらしい。車は大半が日本車だったが、日本価格より2倍近くしているにもかかわらず、車の数は増え続けているとのことだった。何しろ車以外これといった交通手段がないことと外で自転車を乗ったり歩いたりするには暑すぎることが車の数が増える原因らしい。食事は海鮮中心のタイ料理を食べに行ったが、日本で食べたことのないようなプリプリのエビをスパイスソースにつけて食べると、汗がどっと出てきたがその味は格別だった。タイの物価は安く、日本では少なくとも一人一万円はかかるような、美味しい料理が千五百円くらいで食べることが出来た。
その後、夜のホテルまで帰る前に夜のバンコクの街を散策したが、街はエネルギッシュで深夜を超えても一行に人の数は減らなかった。何時になってもビニールハウスに入ったような温暖な気候が人々をそうさせるのかもしれない。バンコク市内の人口は1,200万人だが人々はいたって陽気だ。経済的には決して豊かな国とは言えないが、バンコク人たちの明るさと笑顔はとても印象的で、残念ながら今の日本で失いかけている大切なものであることを気づかされた。街には野良犬たち、中にはかなりの大型犬までがふらふらと歩いているが、保健所も積極的に駆除しようとしないらしい。なんと言ってもタイは仏教国で人々は慈悲深いので無駄な殺生はしないのだ。

翌日のカンファレンスは朝8時から始まるので、ガイドさんの知っているパブによって帰ることにした。日本と違ってタイではチップを渡す文化がある。パブの入り口には何のためにいるのか分からないのだが、大勢の若者たちがオレンジ色の制服を来てたむろしていた。パブではタイの若者がライブ演奏を行っていたが、かなりエネルギッシュであった。夜もふけたのでそろそろ帰ろうとお手洗いに立ち寄るとそこには例の制服をした若者たちがたくさんいた。用を果たそうとしていると、いきなり肩に暖かいおしぼりを当てられた。一瞬びっくりして用を果たそうとしているのに、果たすことが出来なくなってしまった。暖かいおしぼりの後には肩のマッサージが始まった。手を洗おうとすると今度は手を取って洗ってくれた。次はおしぼりで吹き出した。一つ一つの行動に一人一人の若者が関わっていたのだが、目的はチップだった。タイの通貨はバーツだが、1バーツは3円程度である。円の価値はバーツの5倍くらい高いので、チップとして20バーツも渡すと日本円では300円くらいになるので若者たちは喜ぶのだ。一人の若者に渡すと、先ほど僕にサービスをした連中から次から次へと現れ、結局5、6人にチップを渡すこととなった。外に出ようとするとさらに大勢の若者たちが僕たちに近寄ってきた。早速気前の良い日本人として彼らの間で僕たちの情報が入ったのだろう。ほろ酔い加減の僕たちは「まあ、いっかー。」という感覚で来る若者たちに20バーツづつ、渡すと大喜びしていた。日本円で60円でこれほどよろこんでくれることに、むしろ僕たちの方が嬉しかった。もうチップがなくなったので、タクシーに乗って帰ろうとすると今度は、深夜を過ぎているのに写真に写っているインド系の小さな子供たちがバラを売りにやってきた。もう20バーツがなくなった僕たちはどうするか迷ったが、一人に100バーツづつ渡すことにした。彼女たちは微笑みを返してくれた。多分後ろには親たちがいて、僕たちの同情心をくすぐってチップを集めているのだろうが、この子たちの可愛らしさをみるとそんなことはどうでも良いと思った。とにかく笑顔がこれほど人を和ましてくれることにバンコクの一夜で気がつかされた。
次回はタイの病院事情について述べる。