2007年7月19日木曜日
美容外科の選択(脳外科実習-2)
脳動静脈奇形
カルテを見ると、彼女は高校での授業中、突然倒れて市中病院に救急車で運ばれた。診断は脳内出血だった。15歳という若さで脳内出血を起こすことはまれなので、僕の通う医学部付属病院に紹介された。脳外科病棟には脳卒中などを患い、意識もままならない重症患者さんたちが多く入院しており、深刻な雰囲気が漂っている。病室に入ると、あどけない少女が一人ぽつんとベッドに腰掛けていた。突然起きた脳内発作に本人自身、何が起きたかわからなかったのだろう。僕は傍らに付きそうお母さんらしき女性と挨拶を交わし、医学実習生として彼女を担当することを伝えた。ベッドの周りを見ると、同級生の写真や彼女の回復を祈って、同級生が折った千羽鶴がある。僕が「こんにちは。」と少女に話しかけると、彼女は小さな声で返事をした。この少女にいったい何があったのだろう?僕はこの少女の病気に急に興味を持った。
カルテを見ると病気の名前は“脳動静脈奇形”。脳動静脈奇形は10万人に1人の先天性疾患である。脳内血管が生まれつき弱く、いつでも破裂する危険性がある。そのまま放置していると10~40歳代で脳出血を起こす可能性が高い。一度脳出血を起こすと、再発することが多いやっかいな病気である。脳出血を起こすと、神経麻痺や意識喪失、最悪死に至る。治療は手術で奇形のある血管を除去するしかない。しかし、その病変部位が脳の奥深くに存在すると手術不可能である。つまり、頭の中にいつ破裂するかわからない爆弾を抱えているようなものだ。果たしてこの少女の場合は治療可能なのだろうか?僕の興味はその一点に集中した。
難病への対応
病棟では夕方からも医師たちは患者さんの検査、ナース・ステーションでカルテ書きなど忙しそうに働いている。特に決められた仕事のない医学生たちは、もっぱら医師たちの診療を観察する。実習担当医師は超多忙で、学生たちがきちんと実習しているかどうかなどかまっている暇はない。そのせいか、臨床医学実習は事実上さぼり放題だった。この少女の担当になるまで僕はしょっちゅう実習を抜け出していた。当時の僕は何か目的があって実習をさぼっていたわけではなく、ただぐうたらなだけだった。そんな僕が突如、病棟で真面目にカルテを読み出したから、仲間たちは「どうしたんだい?急に真面目になって!おまえらしくないよ。」と驚いた。勉強は好きでなかったが、この少女がどうなるか心配になり、いてもたってもいられなくなっていた。カルテを読んでも英語や略語の聞き慣れない言葉が多く、さっぱり意味がわからない。僕は思いきって担当医に「カルテを読んでもさっぱり意味がわかりません。この患者さんの場合、良い治療方法はありますか?」と尋ねてみた。担当医は僕に向かって「彼女の場合、動静脈奇形が脳の奥深くにあります。残念ながら治療は不可能です。」と答えた。僕は呆然としながら「あの患者さんは今後どうなるのですか?病気を治す良い方法は手術以外に何かありませんか?」と続けた。担当医は「この病気についてよく勉強して、君なりにどうすべきか考えてみなさい。」と僕に言った。担当医が実習に遅刻してきた僕に、最も対処の難しい患者を担当させたということを実感した。
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