2007年7月3日火曜日

美容外科の選択(脳外科実習-1)



実習初日
美容医療は、痛みや命に関わる病を治療するのではなく、治療対象は常に健常人。しかし、健常人でも顔にコンプレックスがあれば、繊細な方だとそれが原因で引きこもりになることすらある。美容医療によってそのコンプレックスを解消出来ると、前向きになることで健康的な生活に戻せる。そう考えると、美容医療も人助けのための通常の医療行為と変わりない。だが、いまだに美容医療には“特殊で日陰的なもの”といった印象がつきまとう。では、僕は何故美容医療を選択したのだろうか?それは、僕が医師を志してから経験したことを僕がどう感じたかに深く関わっている。早速いくつかの思い出深いエピソードを振り返ってみようと思う。
医師となるには医学部に入学することが唯一の条件となる。実際に入学すると6年間の長い学生生活が待っている。元来、不真面目な僕はつねに授業はさぼりがちだった。そのせいか学業の成績も常にぎりぎりで、いつも落第の危機にさらされながら、やっとの思いで最終学年までたどり着いた。医学部最終学年になると、臨床実習と呼ばれる患者さんたちを実際に担当する実技を行わなければいけない。
すっかり、秋めいてきた9月のある日、脳外科実習が始まった。“そろそろ、真面目にならなきゃ。”と思いつつ、実習初日からまたもや遅刻をしてしまった。おそるおそる脳外科病棟の会議室に顔を出すと、同じ実習グループの仲間たちが真剣な面持ちで実習担当医の話に耳を傾けていた。こっそり部屋に入ろうとしたが、すぐに見つかり実習担当医はちらっと僕を見た。頭を下げて席についた途端、担当医師は僕に向かって「そこの遅刻してきた君、この症例を担当してもらいますよ。」と言った。
渡された書類には患者:15歳(高校一年生)、女性と書いてあった。「随分若い患者さんだけどどこが悪いのだろう?」、これが僕の第1印象だった。実習は4人一組のグループで構成されていた。他の仲間たちにはみな60歳以降の患者さんが割り振られていた。終休憩時間になった途端、僕は実習仲間に向かって「やったー、若い患者さんで良かったよ!」と喜びを伝えると、仲間の一人が「やっぱり、お前は何もわかってないよ。」と答えた。僕は「どういうこと?」と伝えると、彼は「お前が遅刻してきたから、その罰として一番難しい症例を与えられたのさ。」と言った。“そういうことだったのか。”、僕は不安に思いながらその患者さんと面会した。

“美少女患者との対面”
病室に顔を出すと、その患者さんはいわゆる“美少女”だったので、思わず面食らった。医師はどのような患者さんに対しても平等であるべきで、私情を挟むべきではないが、“ひよっこ”医学生の僕に、感情をコントロールすることなど無理だった。“美少女”であることを意識するあまり、簡単に話しかけることすらできなかった。この少女の病気は脳動静脈奇形という生まれつきの難病だった。脳動脈の中に弱い部分があり、発作的に破裂し脳内出血を起こすという厄介なもの。ご存じの通り脳内出血は生命に関わる重篤な疾患である。治療は、手術によってその血管の弱い部分を切り取ってしまえばよいのだが、その場所が脳の奥深くだと手術的に治療することは不可能となる。この少女の場合、弱くなった血管が脳の奥深くにあったので、当時の技術ではどうすることも出来なかった。大学病院に運ばれる症例には、この患者さんのようにどうすることも出来ない難病が少なくなかった。当時の僕はそんなこともつゆ知らず、“美少女患者”を受け持つことが出来て幸運とすら思うほど脳天気だった。

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