2007年1月4日木曜日
旅立ち
出発
赤く紅葉したイチョウの木の葉が、初冬の強い風で舞っている。留学の準備はすでに終えた。“まさか、こんなに早く留学することになるなんて。”8ヶ月前に入学したばかりの北大構内から立ち去ろうとしている。この春、新緑が僕の大学院入学を暖かく迎え入れてくれたばかりだった。でも、留学が決まったのは数ヶ月前、教授が僕に、「君は遊びに関してはプロだが、仕事は全くなっていない。アメリカでしっかり研究を学びなさい。」と告げられたときだった。その頃、真面目に仕事に取り組まない僕の態度は、周囲の批判の的になっていた。そのせいか、“このまま楽しい生活を続けているわけにはいかない。この留学を契機に成長しないと、社会人として通用しない。”と僕は肌で感じていた。
ニューヨーク行き直行便が離陸した。どんどん離れてゆく景色を窓の外に見ながら“いよいよか。”と期待不安とが交錯する。“だって、自分が望んでいた留学なんだよ、これは。”そう、自分にそう言い聞かせてみたものの、何故か目頭が熱くなる。“大の男がこんな女々しくしてたら恥ずかしい。”と思った。気持ちを切り替えるため、少し眠ろうと目をつぶった。仲良くなった友人、その頃付き合い始めた彼女、札幌での楽しい記憶が頭の中を駆け巡る。しばらくすると、留学の準備と緊張てで疲れていた僕はぐっすり眠りに落ちてしまった。
到着
気がつくと飛行機はすでにニューヨークに向かって降下を開始した。降下につれて、ニューヨーク郊外の街並がどんどん大きくなる。離陸した時の感傷的な気持ちはすでに吹っ切れ始めていた。ニューヨーク・JFK空港には先に留学していた先輩が迎えに来てくれた。「お疲れさま。」と、先輩は僕にあった途端、にこっとしながら声をかけた。続けて、「お腹空いていない?」と尋ねるので、「はい。」と僕は元気に答えた。時刻を見ると午後の2時、日本では真夜中だが飛行機が着陸した途端、急に空腹を感じた。僕たちは先輩のかなり古びた車に乗り込んで、JFK空港からマンハッタンへと向かった。札幌より少し暖かいが、高速道路から街並を見渡すと、木々の葉はすでに落ち、ニューヨークもすっかり秋めいていた。車を20分も走らせると、僕たちはロングアイランドの一軒のドライブ・インに立ち寄った。
アメリカ映画で出てくるような、いかにも古びれたドライブ・インだった。中年のウエイトレスが注文を取りにくる。彼女は僕が今日本から着いたばかりの、右も左もわからない留学生だと知るはずもない。何を注文したらよいか分からず迷っていた。先輩のほうを見ると、自分の注文に忙しそうにしている。そのウエイトレスは、もたついている僕を早く注文をしろとばかりに睨みつけている。思わず僕はメニューの一番上に書いてあるランチメニューを選んだ。僕は先輩に「怖いウエイトレスですね。」と言うと、先輩は肩をすぼめながら「こんなもんさ。」と答える。先ほどのウエイトレスは僕たちのコーヒーカップになみなみとコーヒーを注いだ。ぬるくて薄味のコーヒーだったが、空腹のお腹に入っ多途端、思わずほっとした。
ウエイトレスはすぐに料理を持って戻ってきた。彼女はかりかりに焼き上がったベーコン、目玉焼き、温められたパンを僕の前のテーブルの上に載せた。僕はそのウエイトレスに向かって一言「ありがとう。」と言った後、夢中で料理を食べた。先輩は驚いたような顔をしながら僕に「随分、美味しそうに食べるね。」と言った。僕は「はい、とっても美味しいです。」と答えると、先輩は「俺は今でもアメリカ料理はどうも苦手なんだよ。」と言った。黙々と料理を食べ続ける僕に先輩はさらに、「君だったら、すぐにこっちに適応出来そうだね。」と言った。食事を終える頃、僕の気持ちはすっかり明るくなっていた。
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