2007年5月9日水曜日
世界の美容医療事情
美容外科医として少しでも向上するため、これまで僕は多くの国々を訪れてきた。さまざまな国を訪れて感じた率直な感想はそれぞれの国々の文化、主義主張によって独自の医療を展開しているということ。各国の興味深いエピソードを含めて世界の美容医療の特徴をいくつか述べてみようと思う。
ラテン系国民たちの美容医療
ブラジルでは豊胸手術の人気が高い。ラテン系の人々が美容医療にいかに積極的であるかを物語るブラジル人女性のエピソードがある。彼女は豊胸治療を受ける決心を固めた後、一刻も早くこの治療を受けたいと思った。しかし、一般的にブラジル人は経済的に必ずしも裕福ではないし、豊胸手術自体、美容医療の中ではかなり高額である。治療費はなかなか貯まらない。ではこのブラジル人女性はどうしたのだろうか?彼女たちは片側の豊胸を行うだけの治療費が貯まった時点で、なんと片側のみの豊胸治療を受けたのである!そして、お金が貯まったらもう片方の豊胸を行うとのこと。片側のみの豊胸治療では間違いなく他人にわかってしまう。日本ではあり得ないこのようなエピソード、これが性格的に開けっぴろげなラテン系国民の特徴である。この例のように美容治療を受けたことを他人に知られても意に介さず、むしろ自慢にさえ思っている。
アジアの美容医療
こういったオープンな性格は東洋人の中では中国、韓国など大陸性アジア人たちに認められる。彼らも多くの場合、美容治療を受けたことを隠さない。むしろ、美容治療を受けることは裕福な証拠とされる。確かに美容治療は生命を脅かす病気とは異なり、いわゆる“衣食足りて礼節を知る”人たちのための贅沢な医療と言える。ある時、経済発展著しい中国で富を手に入れた両親が、いやがる娘に無理矢理美容整形受けさせたことがある。だが、娘は憤り、結局この一件は裁判ざたになったのだ。これぞまさに美容医療が社会的ステータスと考える隣国のエピソードである。
中国、韓国で行われる美容医療は日本に比べると前後の変化がはっきりとした治療が好まれる。二重治療を例に挙げると、日本は“末広がりの二重”、幅の狭い奥二重が好まれる。中国、韓国では幅が広く目尻がややつり上がった二重が好まれる。幅が広く目尻が上がった二重は怒っているように見えるため、日本ではあまり人気がない。だが中国、韓国ではこのタイプの二重は精悍で生き生きしていると解釈さえ人気がある。このように同じアジアの国々でも文化の違いよって、明らかに美意識が異なる。
東南アジアでは
アジア大陸を南下すると美意識はさらに変化し、美容医療の必要性も全く異なる。東南アジアのフィリピン、ベトナム、タイなどの国々でも美容医療は盛んに行われている。北方アジア人と比較すると東南アジア人の目は生まれつき二重で目が大きい。東南アジア人の祖先は暖かい地方で暮らしていたので、極寒の地、モンゴル出身の北方アジア人に備わった寒さから目を守る脂肪がない。そのため我々北方アジア人に起こるやっかいな目の下のくま、たるみは東南アジア人にはほとんど見あたらない。つまり、東南アジア人は目に関する美容治療の必要性があまりない。彼らにどういった美容医療が必要なのか?彼らが頻繁に行うのは鼻の美容治療だ。彼らの鼻は横に広がったいわゆる団子鼻が多いので、西洋人のようにすらりとした鼻になることを希望する。東南アジアは隆鼻術や鼻根部縮小術はとても一般的。
次にこの地域で特徴的なのが、性転換手術。タイに行って思ったのがいわゆる“おかま”、つまり元々男性だったのに女性へと変身した人が多いのに驚かされる。タイに精通した友人に、バンコクの繁華街に連れて行ってもらったことがある。友人はとても綺麗な女性が集まるパブがあるから行こうと言う。そこではセクシーな女性たちがたくさん集まっていたのだが、彼女たちは腰を揺らして踊りながら男性のお客さんを誘惑している。僕も“綺麗な女性だ。”と思って関心を示したが、なんとその人たちは全員男であることを友人から聞かされ、ショックを受けた。このように東南アジア人は男性から女性への性転換手術がかなり頻繁に行われている。我が国でも数カ所の施設で性転換手術は行われている。しかし、タイで行うと治療費が安く、症例が多く技術的に安定しているので、タイで性転換手術を行う日本人が増えているという。
日本の特徴
我が国の美容医療文化はどうだろうか?日本人は伝統的に慎ましさや謙虚さを備えているため、ラテン系人種のように大胆な変化を好まない。日本人が好む美容医療は人にわからない程度の自然な変化。僕が専門的に行う目の下のくま、たるみ治療は日本人に好まれる典型的な美容治療の一つかもしれない。それは皮膚の裏側から進入するため、皮膚の表面から見えるような傷跡が残らない。さらに、目の下のくま、たるみを改善するだけなので、別人に変身するようないわゆる“美容整形手術”ではない。従って治療結果は若い頃の目のくまやたるみのない顔に戻るだけ。他人には“最近、やせたた?”とか“体調良さそうだね。”などの印象を持たれる程度のちょっとした変化である。こういった人知れず現れる変化が日本人にとって好ましい。日本人は元来和を尊重し、自分だけ目立つことは好ましくないといった文化が背景にあるからだろう。
西洋の特徴
最後に北米、ヨーロッパなどの西欧先進国の美容医療はどうなっているのだろうか?ヨーロッパでもスペイン、ポルトガル、フランス、イタリアなどのラテン系国のほうがイギリス、スウェーデンなど北欧アングロサクソン系国々より積極的に行われている。どうやら美容医療を受けるにはある程度のノリが必要で、深刻に考え過ぎると躊躇するのだろうか?
英国にいたってはほとんど美容外科医療についての話題すら出てこない。西洋先進国の中でも英国の影響を強く受けるカナダやオーストラリア、ニュージーランドの美容医療はそこそこ行われている程度。しかし米国では、ハリウッドやハワイなど盛んに行われている。米国のこれらの地域にはいわゆる“プラスチックピープル”と呼ばれる人たちが存在する。“プラスチックピープル”とは映画俳優やファッションビジネスに携わる人々など、外見的魅力を最重要視する人たちを意味する。
西洋人の皮膚は薄く、まるでセロファン紙のようにペラペラしている。一般的に男性より女性のほうが皮下組織に存在する弾性線維が少ない。そのため、女性はある一定の年齢になると男性より皮膚がたるみやすい。ハリウッド映画女優にとって老化を強く感じさせる顔のたるみは致命的な欠点となる。この西洋人女性の欠点を克服するフェイスリフト手術は彼女たちにとってなくてなならない。ハリウッドではこのフェイスリフトの症例数が多いため、フェイスリフト手術のみを行う専門医たちも少なくない。北欧圏の保守的な人たちもフェイスリフト手術が必要な場合、ハリウッドに出向いて治療を受けるほどだ。
そもそも西洋人たちの顔は比較的小さく、目鼻立ちは大きい。スタイルも良く最も美しい人種の一つであろう。ということはそもそも外科的美容医療の介入する余地が最初から少ないとも言える。では英国はじめとする北欧先進国は美容医療を全く行っていないのであろうか?彼らはさらに一歩進んだ医学的見解を持っている。つまり、病気になるということは体が老化するということ。老化を食い止められたらにならないし、若いことが美しいとの発想がある。だから美容医療それ自体に頼るよりも、病気にならないこと。つまり、体自体を健康的で若く保つ医学、いわゆる“アンチエイジング医療”に重点を置く。“アンチエイジング医療”は老化の原因を排除することにある。糖尿病、高血圧などの生活習慣病にかからないこと、規則正しい生活および食習慣、そして体内浄化(デトックス)などの健康的生活の常識を大切にする。実は我が国の美容医療も“メスを使わない治療”が主流となり、外科的手技より内科的側面の強い医療に変わりつつある。
それ以外の国々
インドやロシア、中東諸国でも美容医療は行われている。ロシアでは金の糸による皮膚の若返りなど一種独特な治療が行われているが、この治療は最近日本でも行われるようになった。美容医療機器として欠かせないレーザー機器は、イスラエルで軍の兵器として開発されたが、それが医療に応用して用いられるようになった。中東では最近潤沢なオイルマネーに支えられたドバイの経済発展が著しい。そこには世界の名医を集めてレベルの高い医療センターを作る計画があるらしい。この医療センターには美容医療を専門に行う施設を置く予定。このように世界各国の美容医療事情はそれを行う国々の文化や背景によって独自の発展を遂げている。
美容医療においてどこの国が一番優れているわけではない。この医療は古くはクレオパトラの存在した古代エジプトでも盛んに行われていた。中国では清の始皇帝が何千年も前に永遠の命を得るには何が必要か世界中を探し廻った。美容医療は“いつまでも若く美しくいたい。”という人間の本能に直結した医療とも言える。この医療は人間が生き続ける限り途絶えることはないだろう。逆にこの医療を悪くとると、医療を行う側が受ける側の欲望につけ込んで危険な行為を安易に行ったり、一攫千金を狙うことも可能である。そういった行為は巡り巡って全人類にとって災いをもたらすと肝に銘じながら、慎重な姿勢でこの医療を行わなければいけない。
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